Vol.2 谷由美さん

(独)理化学研究所人事部人材開発課

「社会から応援される研究所を目指して」

― 素晴らしいですね。谷さんが精力的に進めてこられたからこそ、ですね。

いえいえ、どんなことでも、1人でできることってないですよね。周りの状況にもよるし、どんなに良い案件でも通らないこともある。逆もあるけれど。でも、この仕事、男女共同参画推進をやるということになった時、最初に、絶対にあきらめない、ということを決めました。何度でも、諦めずに提案をする。ダメと言われても、何度も出すうちに状況は変わっていくかもしれないし、ダメな理由も変わってくるかもしれない。そこをすり合わせていって、妥協点を探していく。仕事って、何もかも思い通りにできることがベストではないですよね。お互いにとって、一番良い着地点を探していくことが大事なのだと思います。

― 当初、ご自身は研究者ではないからこの仕事はできないと考えたと仰っていましたが、今はどう考えていらっしゃいますか?

今考えると、自分がもし生粋の研究者(支援を受ける当事者)だったら、きっと考え方や提案が偏ってしまっただろうと思いますね。そして、偏っていることに気付けなかったかもしれません。研究所の男女共同参画推進といっても、研究者にとってベストの状態で研究できる環境を作る、というだけではいけないと思っています。それが、社会から受け入れられることも大事だし、あらゆることとのバランスもとても大切だと思います。これまでにいろんなところで男女共同参画の議論を聞いてきましたが、その場で聞いたら違和感がなくても、外の人が聞いたら、ああ、理解できないだろうなというのも、結構ありました。研究所では、良い環境で働けるという状態を作って終わりではなく、それが社会に受け入れられ、応援されるということも必要でしょうから。

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研究に限らずでしょうが、ひとつのことしか見ていないと、イマジネーションが弱くなってしまう気がします。全部を知らなくても、想像することはとても大切で、この想像力がなくなると、怖いですよね。たとえば出産、育児、介護などは、研究者じゃなくても、皆さん、誰でも少なからず大変。それを、研究者だから何とかしてくれ、研究者だから支援されて当たり前という考え方では、やっぱり理解は得にくいですよね。

「男女共同参画の3年間の取り組みを経てワークライフバランスへ」

― 理研の外からの声を聴く機会、というのもありますか?

そうですね、あります。この3年間、男女共同参画の取組を進めていく中で、まず1年目は、理研の中での意識啓発をしよう、と。それは、こちらの主張をするだけではなくて、周りに対して、男女共同参画を進めていくにあたって、こちらの声を聞いてもらえるような、少しでも応援してもらえるような環境を整えていくこと。2年目は、外に出ようと思いました。全国婦人会みたいなところにいって情報交換したり、理研とは全然接点がないような企業に行ったり。研究所の人が来たのなんて初めてです、などと言われながら。そういうところから、こちらが学ばせて頂くこともたくさんあったし、逆に、理研ではこんなこともしてるんですよと、紹介したり。日本の女性研究者って少ないんですね、と言われることだけでも、大きな意味があると思っていました。そして3年目は、定着の年で、これまでの取組を振り返り、足りない点を補いながら、取りこぼしがないように見直しを行いました。

3年でまずは一区切りで、これからは、男女共同参画、ということだけではなく、ワークライフバランスの視点も取り入れ、発展的に取り組んでいく予定です*2

この3年で一定の制度、環境は整ったと思っています。理研は、くるみんマーク*3の認定を、2009年1月に受けました。これは、それだけのものが整った環境にあるということなので、そのことは、しっかり認識してほしいですね。その上で、更に必要だという建設的な意見があがってくると、嬉しく思います。

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くるみんマーク
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理研 子育て・介護応援ハンドブック

「覚悟がばっちりできたら、ぜひ、理研に来てください」

― 谷さんの立場から、研究者に言いたいこと、というのはありますか?

研究者の皆さんが、研究を一所懸命やっているのは十分わかっているので…僭越ながら、研究以外のことにも、少しずつでも、意識を向けて頂ければと思いますね。…ただ、本当にひとつのことだけ極めていく人もいるので、なかなか難しい面もあるのかな、とも思いますが。みんながみんな、同じようにこう、ではなくて、いろんな人がいて、グッドミックスになっていけば良いな、と思いますね。研究、仕事や家庭のあり方も含めて、多様なあり方、選択肢を増やしていけたら。そして個人的には、どんな選択をしても、非難されない社会になっていくと良いな、と思っています。

― 特に、大学院生や若い人へのメッセージはありますか?

私は、正直、早くも?今の若い人たちに、ジェネレーションギャップを感じているのですが、それは、上の世代に対しても、そうなんですよね。いつの時代にも、あること、あったことなのでしょうが。でも、それを言っているだけでは先に進めないので、若い人たちには特に、もっと元気にモノ申してほしいです。古くないですか?と思ったら、そう言って欲しいですね(笑)。

それから、どんな職業にも大変さはあって、楽なものなんてないと思っています。だからこそ、ひとつの職業として、ちゃんとプロ意識を持って社会人になってほしい。最近は、本当に研究を続けていきたいという強い意志があれば、何とか続けられる環境が整いつつあるのではないでしょうか。理研も、整えてきたつもりです。続ける覚悟がばっちりできたら、ぜひ、理研に来てください!

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Yumi TANI

大学卒業後、外資系メーカーにて秘書職として勤務。専業主婦を経て2003年、理研に。男女共同参画シンポジウムの事務局秘書を務めたことをきっかけに、理研の男女共同参画に関わる。

理研の男女共同参画 http://www.riken.jp/r-world/gender/index.html

(インタビュー/文・小寺、写真・西原)

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  • 企画責任者

    kodera

    小寺千絵

    生物科学専攻博士課程

    いわゆるパン酵母を相手に、細胞内の物質輸送の研究をしています。生きているってどういうことなんだろう?と常々考えつつ、生き物たちの美しさに魅せられています。

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