Vol.2 谷由美さん

(独)理化学研究所人事部人材開発課

「“両生類でいいじゃない”と言われて」

― そのシンポジウムで一段落、だったのですね。

はい、契約が満了し、私は、次はフルタイムの仕事を探すつもりでした。ところが、シンポジウムのまとめとして、理事長への提言書を出すことになっていたので、その提言書をまとめるところまでやることになりました。その後理研内の会議での提言を経て、委員会ができることになったわけです。

そこで今度こそ終わるはずだったのですが、年度の途中だったこともあり、今年度内の契約ということで採用していただきました。そういうわけで、また、研究室秘書として働いていると、その年度が終わる頃、今度は文科省の振興調整費、「女性研究者支援モデル育成」*1事業に応募しよう!という話がありました。私は研究者ではないので、研究しながら子育て、というのも経験していないし、研究者の悩みというのが今一つ実感としてわかっていないのでは?と思っていたのですが、私なりに、シンポジウム事務局での経験等から気付いたこともあり、提案内容の議論に加えていただきました。

応募はしても、振興調整費の結果が出るのは、年度が替わってからなんですね。その結果待ちの時期でしたが、採択されるかどうかはわからないが、理研として、男女共同参画に取り組んでいこうということになっていました。

― それは、専任の職員を置いてということですか?

はい、そうですね。ただ私は、自分は研究所には向いていない、理研をでよう、という気持ちがまだあったので、ぎりぎりまでその職への応募を躊躇していました。その時に、「私は陸の生き物で、理研は海なんだ」と申し上げたところ、理事は、「両生類でいいじゃない」と。最終的に、理事の気迫…なにがなんでもやるんだという気迫を感じて、応募してみることにしたのです。そして、現在に至っています。

― 理事のその強い意志はどこから来ているのでしょうか?

理事としては、女性とか子育て中の人を特別に支援しよう、ということではなく、組織に属しているすべての人が能力を発揮できるように、そのためにはどうすれば良いか、ということを常に考えていらしたのでしょうね。いわゆる職場環境づくりであり、人材育成だよね、と。私もそこにはすごく共感して、そういうことなら是非、頑張りたい、と取り組んできたところです。

木漏れ日の中の和光事業所内保育園
木漏れ日の中の和光事業所内保育園

でも結局、その年の振興調整費は不採択だったのですが、採択、不採択に関わらず、提案したものと同じ事を全部やろうということになり、提案通りに委員会を作って、進めていきました。

ただ、初年度はさすがに大変でしたよ。なんというか、男女共同参画なんて意識がほとんどなかったところからのスタートですから。周りの人も、全然こっちを向いていないと感じていました。

「出勤免除から在宅勤務に至るまで」

― 具体的にはどのようなことを行ってきたのですか?

まず、女性研究者の方々と話をしていく中で、現場から具体的にこういう支援が欲しい、と言われたものは全て実現しよう、実現できないものは、何故、実現できないかをきちんと説明しよう、と決めました。そして、3年間かけて、取り組みました。最初に取り組んだのは、産後休業明けすぐに復帰したいのに、保育所等が満員で子どもの預け先がなく、出勤できない場合の在宅勤務でした。ただ、当時の状況で在宅勤務と言うと、言葉からしてすごくイメージが悪くて、これは正直実現は難しいかな、と思いましたね。どうしても、家にいたら、仕事してないんじゃないのというイメージなのでしょうか。そこでちょっと視点を変えて、在宅勤務と言うから受け入れられないのじゃないか、違う言い方(出勤免除)を考えてはどうか、と。裁量労働制で決められている1日1回の出勤義務を免除しますということであって、業務は通常通り行うわけですから。たった1人の人の相談から、同じように、希望する時期に復帰できないケースがあることが分かり、この制度ができたわけですが、利用者の意識は高く、出勤免除期間中に学会発表をしたり、論文投稿をしたり、出産や育児にも関わらず、ほぼこれまで通りの研究ペースを維持しています。

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この出勤免除制度から、いわゆる在宅勤務制度の試行までは、2年かかりましたが、子育て中の人だけじゃなく、介護中の人や、遠距離通勤の人など、もっと幅広い人が使える制度になっています。最初の年のネガティブな反応から2年経ち、もう一度、ダメならダメで納得できる理由を説明したいと思い提案したのですが、いざ具体的な検討に入ると、皆さん、積極的に前向きに捉えてくださいました。試行だけでもまずやってみようよ、と。この3年の間に議論を重ねて、少しずつ関係者の意識や状況も変わってきて、こうしたことを考える、議論するということが当たり前になってきたのかな、と、とても感慨深いものがありました。

  • 企画責任者

    kodera

    小寺千絵

    生物科学専攻博士課程

    いわゆるパン酵母を相手に、細胞内の物質輸送の研究をしています。生きているってどういうことなんだろう?と常々考えつつ、生き物たちの美しさに魅せられています。

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