第1回「身近な雷雲に潜む現代物理学の最前線」

榎戸輝揚さん(理学系研究科物理学専攻D2)

インタビュアー:池内桃子(理学系研究科生物科学専攻M2)

宇宙のはるか彼方を見ている方法で、
地表近くの雷雲を見てみたら...?

榎戸さんたちのそんな稲妻のようなひらめきが、
一瞬の大発見につながりました。

インタビューの中身から

Q. 「雷のときに、傘を差したら落雷の危険がありますか?」

── 「僕は雷雲の専門家ではないので…(苦笑)」

Q. 「ご専門が宇宙物理学でありながら、雷雲を研究するのは大変でしたか?」

── 「実は方法論や目的は同じで、対象が違うだけなんですよ」

概要

近年,雷雲中の強い電場で,非常にエネルギーの高い電子ができているのではないか,ということが言われつつありました。もし,エネルギーの高い電子があれば,そこからは制動放射とよばれる過程で放射線がでてきます。「放射線を詳しく調べれば,電子のことが分かるはず!」そこで,宇宙の放射線を専門にしている榎戸さんと土屋晴文さん(ともに牧島研)は,このために開発した高感度検出器を,新潟県まで持っていきました。そして冬のある日,ついに一瞬のガンマ線が検出されたのです(図2 矢印)。(のちに数例観測され,再現性が裏付けられました)それは,雷雲という身近な場所に,粒子加速という物理現象が発見された瞬間でした。この研究分野では "ツチノコを見つけたくらいの" 大発見です。それは同時に,雷発生のメカニズムに迫る可能性を秘めた発見でもあります。

雷雲の中でガンマ線が生成されるメカニズム

図1:雷雲の中でガンマ線が生成されるメカニズム

ガンマ線の突発的な発生を示すピーク

図2:ガンマ線の突発的な発生を示すピーク

  • Enoto portrait

    専門は高エネルギー宇宙物理学。「膨らんでいく科学の境界じゃなくて、それに取り残された部分を見てみたら、意外に面白いことが転がっているんじゃないか」

    プロフィール

    榎戸輝揚(えのと てるあき)

    札幌生まれ、趣味は星の王子様の各国語版を集めること。仲間とワイワイやるのが好き。可愛い女の子がいるとなおよし。

  • 用語解説

    ガンマ線
    可視光の105-106 倍以上のエネルギーを持つ光のこと。
    粒子加速
    電子などの荷電粒子を、電場などを用いて高エネルギーまで加速すること。
    制動放射
    荷電粒子が物質 (大気、鉛など) の中を運動するとき、物質の原子核近傍の電場により減速されて失った運動エネルギーが光(ガンマ線など)として放射されること。
  • より詳しい記事

    雷雲ガンマ線実験GROWTH

    理化学研究所記者発表

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