Vol.1 菊谷詩子さん
サイエンス・イラストレーター
― ところで、日本に戻られたのは、何かきっかけがあったのですか?
アメリカでインターンが終わってふらふらしている頃に結婚して。最初はダンナが向こうで仕事を見つけてくれたんですね。その後、彼が日本で就職して、それで戻ってきました。アメリカの方が良いかなぁ、とも最初は思いましたけど、日本でもなんとか仕事はあったし、ご飯はおいしいし、これはこれで良いかな、と。うちは高校の同級生なんですが、研究者同士のカップルだと、長い間別居していたりとか、違う国に住んでいたりすることなんかもありますけど、それでも何とかなりますよね。そういうカップルも、周りにはたくさんいます。
― 様々なこと、やってみれば良いのですね。
大学院生の頃は、世の中って、もっとフォーマルにできていると思っていました。でも、実は結構カジュアルなんですよ。電話して、会いにいって、話が盛り上がったら仕事を貰えたりする。すぐに仕事が無くても紹介して貰えたり、紹介の紹介でつながったり…やりたいことがあったら、恥ずかしいと思わずやってみれば良いんです。レールの外だと思わずにやってみる。自分自身、なかなかレールから外れられなかったのですが、いまやすっかり外ですね(笑)。
― すごく落ち着いて、達観していらっしゃる印象です。
この年になったら、もう、どうしようって言いませんよ。絵が上手な大学院生と、それを仕事にしたということはやっぱり違いますからね。だから、今、先のこと考えてどうしようって言う人は、言える時期なので、言っていればいいんじゃないかなぁ。自分が大学院生の頃は、本当に自分のことでいっぱいいっぱいでしたからね。
今の大学院生たちはしっかりしているし、私から言えることなんてないのですが…そうですね、特に女性研究者の人には、なんとかして、続けて欲しいなって思っています。とても優秀な人が家庭に入っていくのもたくさん見ましたが、なんらかの形で続けていけると良いですね。
― サイエンス・イラストレーターの立場からは?
研究者になる人たちに、最後にお伝えしたいこと。絵はおまけじゃないんです。絵を見て、内容がよくわかるようなものを描けるように頑張ります。もっと絵に期待していてください。
**本日のカメラマン平沢から質問**
- ・好きな本は?
- サン・テグジュベリの「人間の土地」。文学も好きです。
- ・好きな飲み物は?
- コーヒー。お酒が無くても生きられるけど、コーヒーがないと生きられない。
- ・おうちにアトリエが?
- 和室で描いてます。仏壇をバックに。
- ・絵を描く時間帯は?
- 14時から17時は描けないです。眠いですよね(笑)。
Utako KIKUTANI
幼少期を東アフリカのケニア、タンザニアで過ごしたことをきっかけに野生動物に興味を抱くようになる。東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻(動物)にて修士号を取得後、米カリフォルニア大学サンタクルーズ校へ留学、サイエンス・イラストレーションを専攻。アメリカ自然史博物館でのインターン期間を経てニューヨークを中心に活動。2001年以降は日本で教科書、図鑑、博物館の展示等のイラストを制作している。
(インタビュー/文・小寺、写真・平沢)