埼玉県立川越高校訪問記@JAXA

講師 笠原慧 (理学系研究科地球惑星科学専攻 PD)

川越jaxa写真1

授業の様子

 
川越jaxa写真2

JAXAの施設見学

 
川越jaxa写真3

クリーンルームの中で

 

「イシハラ家の人間たるもの,発信せよ」
いつだったかのテレビ番組で,タレントの石原良純さんが石原家の家訓について語っていたことです.つまり,周りから享受するばかりの人間でなく,周囲に何かを与えることのできる人間であれ,と.
これとほとんど同じような内容の名言を,ケネディやチャーチルも遺しています.偉人たちは,自分が周りに何をしてやれるか,何を与えられるか,が重要であると説いているのです.

研究者(や研究活動をする大学院生)が世間に与えられる事はなんでしょうか.
ひとつは,研究の(副)産物によって人が喜ぶ道具やシステムが具現化されることに違いありません.しかし研究分野によっては,何らかの利益のようなものを目的とするわけではなく,むしろ日々の生活には役立たない事をほぼ確信しながら研究生活を満喫している事も少なくありません.

日々の生活の役に立ちそうもない研究が,ある日突然,実は日常生活に深く関わる重要な研究である事が発覚するかもしれません.しかしそういうことは極めて稀です.では,日常生活を便利にしそうもない研究者(や研究活動をする大学院生)が,ふだんから世間に何かを与えたいと思う場合,どうするか.シンプルなのはやはり,個人的に研究上知りえた秘密(=この世の仕組みとか,生命の神秘とか)を周りに楽しくかっこよく話すことでしょう.

BAPは,そういう場を提供してくれる貴重なプロジェクトであり,実際私も今回,母校学生に特別授業を行う機会を頂きました.ここで,「母校」という事が大事です.授業が単なる智の提供でなく,そこに「母校」を通じた人間的つながりが存在するからです.まだおじさんおばさん・おじいさんおばあさんになっていない母校の先輩の話は,現役高校生には特別な影響があるはずです.自分をある程度重ねる事ができるわけですから.

今回の特別授業では,母校の物理担当教諭の希望により,私の職場であるJAXA相模原キャンパスを生徒が来訪する,という形をとることになりました.普段使われている実験室や,試験中の惑星探査衛星を見学する事ができるからです.

当日は,施設見学に先だって,宇宙プラズマ・地球磁気圏にまつわる生真面目な話と,その他オトコノコ的な雑談(母校の川越高校は男子校です)を合わせて4時間ほど行いました.もともとは2時間の予定でしたが,時折脱線したり,何度か休憩を取ったりしつつの長丁場となりました.最後の1時間は一緒に昼食をとりながらの雑談でした.
時間がおしていてもしっかり雑談の時間をとったのは,先に述べたような人間的つながりの部分を大事にしたかったからです.少し長く話しすぎたかと心配しましたが,さすが高校生,疲れも見せずに午後の施設見学も楽しんでいました.クリーンルームに入るときの無塵衣着用やエアシャワーは特に楽しかったようです.

今回の見学やおしゃべりで彼らに果たしてどれだけのものを与えられたのか,アンケートの結果だけではよくわかりません.しかし,大学院生として宇宙科学研究本部に所属する方法を質問してくれた生徒たちが,数年後に実際に進路の選択肢のひとつとして宇宙科学研究本部を入れてくれれば本望です.

さらに言えば,BAPというプロジェクトに興味がありつつ最初の一歩を躊躇してこのあたりのウェブページをうろうろ読んでいる人が,3秒後に講師登録の問合せをしてくれればなお幸甚です.